重量物取扱作業に制限はあるのか?何㎏まで持てるのか?

安全衛生について思うことを書く「安全衛生あれこれ」。

第一弾は重量物取扱作業と腰痛についてです。

重量物の人力での運搬には、労働基準法で取り扱うことができる重量が定められています。また「職場における腰痛予防対策指針」にて重量の目安が定められています。

最近腰痛問題が注目されていますので、紹介してみたいと思います。

 

 

労働災害の推移

最近腰痛問題が注目されているのは、腰痛による労働災害が増えているためです。

【折れ線グラフ】

昭和48年から死亡者数は減少傾向であるのに対して、休業4日以上の死傷者数は平成20年頃を底に上昇傾向となっています。この原因は2つあると言われています。1つ目は定年延長/再雇用に伴う働く高齢者の増加です。筋力が衰えた高齢者が転倒や腰痛により労災になることです。

もう一つの原因は円グラフに示した保健衛生業の労災の増加です。

【円グラフ】

日本の高齢化により、福祉介護施設で働く方が多くなっています。入浴などの介護で無理な動作となり腰痛が発生しています。平成24年には福祉介護施設が含まれる保健衛生業の「動作の反動・無理な動作」による労災が3,110件だったのに対して、令和2年は5,393人と大きく増えています。

*動作の反動・無理な動作による労災は、必ずしも腰痛とは限らないが腰痛が多い。

断続作業と継続作業

重量物の制限は断続作業と継続作業という言葉が出てきます。下記は私の解釈です。ここの境目は難しく法令違反になる場合もありますので、迷ったら労働基準監督署に確認したほうがいいと思います。

また作業者とリスクアセスメントを通して対話をして、断続作業なのか継続作業なのかを確認しあうこともとても大切です。

断続作業

作業自体が間欠的に行われて作業時間が長く継続することなく中断し,しばらくして再び同じような作業が行われ,また中断する,というように繰り返される作業と言えます。

トラックの配達で配達先で荷物を降ろして、台車で運んでお客さんに届ける。そして運転をした後に同じ作業を繰り返す。このように別の作業が一定時間入る作業を想定してると思います。

別のメインの仕事に付随して重量物作業が付随しているというイメージです。(荷物を車で配達する作業に重量物作業が付随している)

継続作業

同一の作業が中断することなく行われる作業と言えます。

誰もが疑いのない継続作業はトラックへの積み込み作業だと思います。

他の場所から台車に荷物を積んで、トラックまで運んで積み込み作業をすることを繰り返すのも断続作業だと思います。

重量物作業に他の作業が付随しているイメージです。(トラックの積み込みという重量物作業に台車で運ぶ作業が付随している)

一時間に何回荷物を持ったら継続になるか?等の目安は見つけられませんでした。ご存じの方は教えてください。

  

労働基準法等の法令で定められた重量物の制限

重量物を取り扱う作業というのは年少者と女性について重量が定められていて、下記の重量を超える重量物を扱うことを禁止しています。

年少者(満18歳未満の者)の重量制限

労働基準法第62条に年少者の危険有害業務の就業制限について記載されており、年少者労働基準規則第7条を参照すると下記の重量制限が定められています。

満16歳未満の男性は継続作業では10㎏未満、断続作業で15㎏未満

満16歳未満の女性は継続作業で8㎏未満、断続作業で12㎏未満

満16歳以上18歳未満の男性は継続作業で20㎏未満、断続作業で30㎏未満

満16歳以上18歳未満の女性は継続作業で15㎏未満、断続作業で25㎏未満

女性の重量制限

労働基準法第64条の3に女性の危険有害業務の就業制限について記載されており、女性労働基準規則第2条を参照すると下記の重量制限が定められています。

*労働基準法第64条の3は1項で「妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性(妊産婦)」について記載されている。しかし2項で全ての女性に準用できると記載されているので、全ての女性に関する条文である。

満16歳未満の女性は継続作業で8㎏未満、断続作業で12㎏未満

満16歳以上18歳未満の女性は継続作業で15㎏未満、断続作業で25㎏未満

満18歳以上の女性は継続作業で20㎏未満、断続作業で30㎏未満。

*満18歳未満は年少者の規則と同じ

 

成人男性の重量制限

かって制定されていた「職場における腰痛予防対策の推進について(基発547号)平成25年廃止」では下記のように記載されていました。

2 重量物の取扱い重量
(1) 満18歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う重量は、55kg以下にすること。
また、当該男子労働者が、常時、人力のみにより取り扱う場合の重量は、当該労働者の体重のおおむね40%以下となるように努めること。
(2) (1)の重量を超える重量物を取り扱わせる場合には、2人以上で行わせるように努め、この場合、各々の労働者に重量が均一にかかるようにすること。

この55㎏は当時のILO(国際労働機関)の基準に従ったものですが、この数字が独り歩きして55㎏までは持ってもいいように解釈されて腰痛が増加した感もあります。そのため現在の指針は下記のようになっています。合わせて基発547号は廃止になっています。

2 人力による重量物の取扱い
(1) 人力による重量物取扱い作業が残る場合には、作業速度、取扱い物の重量の調整等により、腰部に負担がかからないようにすること。

(2) 満 18 歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う物の重量は、体重のおおむね 40%以下となるように努めること。満 18 歳以上の女子労働者では、さらに男性が取り扱うことのできる重量の 60%位までとすること。
(3) (2)の重量を超える重量物を取り扱わせる場合、適切な姿勢にて身長差の少ない労働者2人以上にて行わせるように努めること。この場合、各々の労働者に重量が均一にかかるようにすること。

指針をインターネットで調べようとすると古い指針が出てくるので注意してください。平成25年(2013年)のものが最新です。

 

指針により成人男性は体重の概ね40%以下と定められています。

例えば65㎏の成人男性は65㎏×0.4で26㎏が目安となります。

成人女性は男性の取り扱える重量の60%位までと定められています。

例えば50㎏の成人女性は50㎏×0.4×0.6で12㎏が目安となります。

 

法律的には成人女性の継続作業の上限は20㎏未満となってますので、19㎏でも法律的には問題ありませんが、労働者の腰痛予防の観点からは指針の数字を守ることが推奨されます。

また成人男性にしても加齢とともに身体の衰えがありますので、年代で区切ってもう少し厳しめのルールを運用すると腰痛予防に役立つと思います。

私の会社では50代の成人男性の目安を20㎏としています。色々作業の割り付けが大変で、作業者側からも厳しすぎると声が出る位の規則ですが、腰痛予防に力を入れているので順守しています。

「重量物」とは荷物を意味しており、人体は含まれないこと、また、「重量物を取り扱う」とは持ち上げることであり、押すことや引くことは含まれないとされています。

健康福祉施設で看護では対象が「人」になります。「人力による人の抱上げ作業」は「重量物取扱い」とはなりません。

女性則の継続作業で取り扱える重量の上限が20㎏です。看護する者にかかる重量が20㎏を下回るように、複数人で分担して抱上げ作業を行うことを常に行うことは非現実的です。

しかし一人で30㎏以上の人の抱上げ作業を行って良い訳ではなく、指針では「原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」という予防対策が記載されています。

 

腰痛予防アイテム

アシストスーツ

重いものを運ぶ時やつらい中腰での作業など、腰への負担が軽減できます。

モーターが入っているものは50万円を超えるものもありますが、下記マッスルスーツは価格も10万中盤とモーターのものよりも大幅に低価格で入手できるようになりました。空気でアシストするので電池切れの心配がなく、防爆エリアでも使用できます。

ネットの安いところだと10万円前後で売っています。マッスルスーツの定価は税込み約15万円なのでネットショッピングもありです。

◆ターゲットユーザー◆

重作業や体に負荷がかかるような環境で働く方

・農業(中腰を維持する収穫や仕分け作業など)

・介護(ベッドや車いすへの移乗、排せつ介助)

・製造業(原料や製品の積み下ろし)

・建設現場(資材の運搬)

・小売業(商品の搬入、棚出しなど) 

HPを見ていただくと2種類あります。それぞれの特長を記載します。

【ソフトフィット】

歩きやすいタイプで、35°にかがんだ状態から補助しますので、少し残し曲げ作業には向きません。

製造・物流・建設業に向きます。

【タイトフィット】

少しかがんだ状態からでも補助しますが歩きづらいのであまり移動が無い作業向きです。その場で中腰を維持して作業するシーンに向いています。

 

会社に有るので私も付けさせてもらいましたが、重量物を持つのは楽でしたのでお勧めです。私の知人はこれが無いと翌日とても腰が痛くなるので手放せないと言っていました。

まずは一個導入してみてはいかがでしょうか。

腰部保護ベルト

指針には腰部保護ベルトについて下記の記載があります。

6 その他
(1) 必要に応じて腰部保護ベルトの使用を考えること。腰部保護ベルトについては、一律に使用させるのではなく、労働者ごとに効果を確認してから使用の適否を判断すること。

腰部保護ベルトの腹圧を上げることによる体幹保持の効果については、見解が分かれている。作業で装着している間は、装着により効果を感じられることもある一方、腰痛がある場合に装着すると外した後に腰痛が強まるということもある。また、女性労働者が、従来から用いられてきた幅の広い治療用コルセットを使用すると骨盤底への負担を増し、子宮脱や尿失禁が生じやすくなる場合があるとされている。このことから、腰部保護ベルトを使用する場合は、労働者全員に一律に使用させるのではなく、労働者に腰部保護ベルトの効果や限界を理解させるとともに、必要に応じて産業医(又は整形外科医、産婦人科医)に相談することが適当である。(指針の解説から引用)

作業中に腰部保護ベルトをする場合は効果を確認しながらになると思います。

とはいえ帰宅した後の安静時に腰部保護ベルトを付けると楽になる人がいるのも事実です。皆様に合う腰部保護ベルトを着用してください。

 

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